先週の話ですが、翌日に焼鳥屋に行く約束をしていたのを完全に忘れて焼き鳥を食べに行きました。
どちらもとてもおいしかったので、面白かった映画の話をしたいと思います。
「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」
巨万の富を築いた文豪が、一族が集まった85歳の誕生パーティの翌朝に(自分自身を含む)何者かの手によって死んでいるのが見つかり、匿名の依頼を受けた探偵がその事件の真相に挑んでいくという、アウトラインはとてもシンプルでわかりやすい殺人事件ミステリーです。
基本の流れは「古畑任三郎」のような、犯人側(そしてある意味では主人公格の看護師マルタ)の犯行計画や実行シーンをあらかじめ描いたうえで探偵がそれをどのように暴いていくのか、という進行なのですが…
話が進んでいくごとに少しずつ判明してくるストーリーとギミックの多層構造、そしてそれをしっかりと繋ぐたくさんの描写と伏線の丁寧さ、それでいて話がややこしくならず一本の太い柱で通るわかりやすさが素晴らしく、普段あまりミステリーに触れず、あたまも残念無念なぼくでもスッと食べることが出来ました。このバランス感覚は正直めちゃくちゃすごいと思うんですよ…
序盤からひとつずつ提示されていく小さなピースと台詞が、終盤に次々と回収されていくので、頭の中で散らばったパズルがバシバシ完成していく感覚がとても気持ち良いです。
探偵役のダニエル・クレイグ、本当に顔が良い…少し斜に構えてクレバーな名探偵、というのにあまりにも合致するナイス・ディテクティブ・アトモスフィアを感じます。薄く浮かべる笑みと蒼白い瞳がたまらない…中盤まで物語の外側で狂言回し的に飄々としてたのに、後半エンジンがかかってくると一気に有能になるのがカッコ良すぎる…
それ以外の登場人物も、それぞれ「こういう性格や役回りならこんな外見だな!」というラインを抑えたビジュアルで最高です。
予告だけ観て三谷幸喜作品みたいなドタバタワッホイ系映画だと勝手に思い込んでいたんですけど、実際はかなり地に足の着いた最高のミステリー映画だったので、いい意味で裏切られました。
ちょっと今激烈に話題になっている作品が多くあり、その陰に少し隠れてしまいかねないとは残念ながら思うのですが、こちらも文句なく最高の映画だったので、全人類と全遺産相続人と全探偵に観てほしいですね…
完全なネタバレはないのですが、核心に関わる部分で好きだったところの話をしたいので分けておきます。
ネタバレというかちょっとだけ結末に触れます。結末で好きだったところ。
ラストシーン、相続した莫大な遺産と、見放された遺族たち、そして自分のポリシーとを天秤にかけたマルタ(文句なしでめっちゃ優しい人)の
「私は彼らを救うべきよね?」
に対して
「私の考えはそうではありませんが、あなたのなさりたいように」
と探偵が答えます。
そして、バルコニーから見下し長冒頭で登場した主人のマグカップ(「これは私の家だ(MY HOUSE)、私のコーヒーだ(MY COFFEE)」と書かれてる洒落っ気のあるカップ)でコーヒーを飲む、というカットで物語は終わるのですが、明言せずとも彼女が遺族たちを切り捨てたと暗喩していますよね、これ…?
それまでの劇中であまりにもエゴってて醜い姿を現した彼らに対する一つの制裁に感じられ、個人的にはとても気持ちが良かったのでした。ぼくは勧善懲悪が大好きなので…そうあってほしい
ほかにも
「彼女は嘘がつけない、吐いてしまうから」→「吐き気を抑え嘘をつき、時間差で吐瀉物とともに真実を叩きつける」
「お前は本物のナイフとおもちゃのナイフすら見抜けないボンクラだ」→「マルタに襲いかかった時に握ったナイフがおもちゃであると見抜けなかった」
「彼女はお前より囲碁が強いぞ」→「最後の騙し合いでマルタに負ける」
など、前半に出てきた布石が次々にバシバシ決まっていくの最高じゃないですか…?
そんな感じで、前に描写されたことを踏まえてここでキメていく!という細工が非常に多くて、確かな食べ応えがそこにあります。
全人類観てほしい…