こぶのなかのしる

観た映画のこととか、アナログゲームのこととか、色々と与太話して暮らしています

【映画】ビバリウム

そういえばまだ初詣行ってないですね…新年を迎えるまでは初詣行ってもいいですよね。

 

初詣に行きたいので、面白かった映画の話をしたいと思います。

 

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ビバリウム』(2021/3/12)

 

怪しげな不動産屋マーティンの紹介で郊外にある建売の住宅地「ヨンダー」にマイホームの内見に訪れたカップル・トムとジェマが、その広大でどこまでも同じ景色、同じ家が続く上に住人の気配すら一切ない不気味な住宅地に置いていかれ、まっすぐに家から逃げても元の場所に戻り、家を燃やしても元の状態に戻ってしまうという謎の無限ループによってどうやっても出ることが出来なくなってしまう。そこにダンボールで(?!)届けられた誰のものかわからない赤ん坊を「この子を育てたら解放する」のメッセージに従って育てさせられることになり、その住宅地で、その家で暮らすうちにふたりの精神の均衡が崩れ去っていく…
という、ものすごく不気味で気持ち悪く彩られた、夢のマイホームホラーです(夢のマイホームホラーとは??)

 

www.youtube.com

 


まずなによりも、この映画全体を取り巻くビジュアルの気持ち悪さが良いんですよね。
ライティングさえ間違ってなければパステルカラーなミント色の家々とよく晴れた青空、清潔に整えられた道路と青々とした芝生が綺麗で、日本人がイメージする海外の楽しそうな住宅地…のはずなんですけど、それらすべてが完全に悪意のある光の加減によって、蒼ざめた無機質で気味の悪い世界になってしまいました。なんということでしょう。こわすぎる。
屋根に登った時に見える同じ家が地平線の向こうまで続いてる景色とか、綿を千切って空に貼り付けたみたいな不自然な雲が空に点々と散らばってるのとか、毎日のように届く真空パックされた必要最小限の食料品とか、永遠に主人公たち以外の人間…どころか鳥や虫に至るまでが一切出てこないこととか、なんかもう細かい所がいちいち怖いんですよね…あんな所にいたら完全に頭おかしくなります。
そして彼らが育てるはめになった子供がこの映画の肝なんですけど、彼は常人の数倍の速度、約100日で赤ん坊から10歳児くらいまで育ち、そのままの速度であっという間に成人します。それに加えてトムとジェマのいう事を反芻して真似したり、奇声を発して暴れまわったり、何かっていうたびにこちらを観察するように眺めていたり、気持ち悪い模様が走るだけのテレビの映像を夢中になって見つめていたりとか「我々と同じ人間の形をしているのに明らかに何かが違う」というめちゃくちゃ異物感があるこわい存在で、こんなものと一緒に何か月もこんなところで暮らしてたらそりゃ気も狂いますわ…という説得力があります。どうしてこんなことに…


この映画では結末というかギミックは割と早い段階で分かるんですけど、それはいわゆる、よくあるところの「オチが読めてしまった」みたいな話ではなくて、冒頭2秒でカッコウの托卵シーン*1をドンと映すことでこの物語の盛大な前フリをしたり、物語の各所に散らばる、伏線というにはあからさますぎる数々の描写でオチを気前よくネタばらししてくれる仕組みです。
つまり、それによってこの映画の中核である「そこに至るまでの気持ち悪すぎる話や雰囲気の流れ」と「この映画が表膜の裏側に忍び込ませた世界に対するメッセージめいた何か」に集中できるんですよね。この気持ち悪い、肌にまとわりついてくるような不快感が本当に最高でした。
もちろん、そこから着地するオチもちゃんと、すごく好みです。圧倒的に趣味が悪くて。どうしてこんなことに…



この映画のタイトル「ビバリウム*2」というのも、製作者の悪意をたっぷりと感じる単語のチョイスが絶妙です。好き…

*1:他の鳥の巣を乗っ取って自分が大人になるまで見ず知らずの親鳥に養わせる、大自然が生んだ地獄みたいなカッコウの習性

*2:ガラスケースなどに自然の状態を再現して生物を飼育する空間。最近だと爬虫類とかカエルを飼育するのに使われています