近所のスーパーでロールちゃんが108円で売ってる日はいい日です。
いい日なので、面白かった映画の話をしたいと思います。
「空気人形」
人生行き詰った男(しかも…板尾創路だぜ…?)に溺愛されていた安物のラブドールが、ある日突然人間の心と自我を手に入れ、主人が留守の時間だけ外の世界に飛び出して少しずつ世の中のことや人間の感情を学んでいき、その過程で外の世界の青年に恋をして、人形ではなく、人間と同じようなひとつの存在としての階段を駆け上がっていく、薄暗い現代のおとぎばなしです。
まず、とにかくこのラブドールのノゾミちゃんがかわいい。
「人間の形だが人間ではないもの」として100点満点で5000億点のたどたどしくて危なっかしくて、不気味の谷の彼岸此岸を軽脚で往復するような、そんな所作と言動、それからどこか人間離れした佇まい、眼の人形感とか、表情の無機質さとか、そんな総合的なビジュアルが最高です(なぜなら最高なので)
まったく人間の世界と常識を知らないところからはじめて、よちよち歩きの幼児のようにいろいろなことを吸収し学習しながら、アルバイトしてためたお金でおもちゃの指輪を買ったり、かわいい靴を買ったり、ひとりでプリクラ撮ってみたり、ビジュアルの美女っぷりからのギャップがとてもすばらしいのです。それだけでもほんと観てほしいくらい描写に力と性癖があふれています。
いいよね…人外と人間の狭間に生きる亜人外…SUKI
この映画「人はだれしも欠如しており、お互いはただ世界に存在するだけでその欠けた穴を少しずつ満たしている」というテーマがあって*1、それに合わせていわゆる「欠けた人」がたくさん出てきます。そのどれもが、人生に追い立てられ、心を満たす何かや踏み出すきっかけを待ったまま欠けた心を持て余していて、人の心をどんどんと手に入れていくノゾミちゃんと対比されている気がします。このへん結構おつらいので、ちょっとおしりの筋肉に力を込めておいてもらいたいです…
「自分は代えのきく代用品なのか?自分でなければいけないのか?」という悩みを、作中の誰もが持っていて、多分ぼくも持っていて、その気持ちが投影されてしまう人には観ていてえぐい刺さり方をしてしまう気がします。ました。
ラブドールが主人公という事でイヤンなシーンやアラァな描写も多くあり、決して万人にオススメできる作品ではないのですが、それはそれとしてじわじわぐりぐり情緒に溢れた最高の映画なので、日常に何かと心がすさみがちな全人類と全人形に観てほしいですね!
…でもぼくにはラブドールのおなかに息を吹き込む性癖についての同意はできなかったです… えろい…のか…?
あっ、あと、キモチワルさ全開のものすごく“強い”板尾創路が見られます。これはたいへんなことですよ
以下ネタバレに触れつつの内容になるので分けておきます。
ネタバレ込みのお話です
前述の「人間はだれしも欠如しており、ただ存在するだけですべての人間はお互いのその欠けた穴を埋めているのかもしれない」というテーマは途中で明確に提示されるのですが、外の世界で生きていく中で色々な人とかかわった彼女は、劇的な変化こそ全く与えてないにしても、確かにその欠けた穴にひとカケラずつでも何かを注ぐことができていて、代えのきかない一人の存在になれていた、そういう意味では「人間」になれたのかもしれません。
ラストシーンではゴミ捨て場で空気が抜けて壊れていきながら、たくさんの人に囲まれて誕生日をお祝いされて泣くという「人間としての夢」を見るのですが、本人も、彼女に心を与えた見えざる誰かも、最後には彼女を「人間」だと認めてくれたのかなぁ、と、認めてくれていたらいいなぁ
*1:とぼくは思ってるのですけど