映画観た帰りにフードコートでクレープを食べるのをガマンしたのでこの功績を称えて全国の小中学校に銅像などが建っても良いと思います。
ガマンできてえらかったので、面白かった映画の話をしたいと思います。
「人数の町」(2020.9.4)
多重債務者や犯罪者、ネカフェ難民、失業者など、社会からはみ出てしまった落伍者たちを街中から拾い集めて、独自のルールと奇妙な仕事を与える代わりに、それに応じた衣・食・住・性(!?)を保障する「町」と呼ばれる施設が舞台の、現代日本の中にへばりついたようなディストピアもしくはユートピアの模様と、その「町」に所属することに疑問を抱き始めた主人公の物語です。
とにかくまずはこの「町」というシステムとそれを取り巻く空気、雰囲気がものすごく不気味で、気持ち悪いんですよ。たとえばそれは建物の冷たい質感だったり、フレンドリーなようで一切の感情が乗っていないアナウンスだったり。そりゃもう120分ずっと、なんか居心地が悪くて気持ちが悪い…内側の人間が満たされてそれなりに幸せそうに暮らしているのですが、それがそれを外から観る視聴者からすると背筋に変なものを入れられたような、そんなイヤな感じです。こわすぎる…
実際にこれが「100%存在しないもの」ではない絶妙な、ただのフィクションとして突き放せないような温度感がそうさせてるのかもしれないです。この気持ち悪さが最高です。ストーリーには好き嫌いがあると思うんですが、この舞台設定の空気の作り方は本当に素晴らしいので、それを吸いに行ってほしいくらいです。
「ディストピア」って最近たまに誤用されることもある単語ですが、大多数の当事者たちが徹底管理されたお仕着せの幸せに浸かって生きているこの映画の世界観は完全にディストピアと言っていいと思います。本人たちにはユートピア、というのも含めて、ですね。
この「町」で与えられる仕事というのが、
「権利放棄された選挙権を集めて、一人の候補者に集中投票する」
「SNSアカウントを濫造してターゲットのお店にサクラとして押し寄せバズらせる」
「特定の商品に絶賛、もしくはdisのクチコミを投稿しまくる」
など、そしてそれを達成するとより良い食事や新しい服やお酒などが支給されるというシステムで、これだけ見ると極端に描写されたフィクションなんですけど、この「町」で行われていることの濃度をほどよく薄めると「あれ?これ、現実世界でもそこそこあるやつなのでは…?」とふと思ってしまって、より一層怖い気持ちになります。この辺のお仕事がはっきり描写され始めたあたりで『人数の町』というタイトルの意味がガッチリと勘づいてこれるんですけど(勘の良い人はもっと早い段階で気づくと思います)このタイトルが本当に趣味が悪くて気持ち悪い。最高ですね…
翻って自らの現実社会を見返してみると、さて、彼らをフィクションと笑えるほどにぼくは自分で決定し、自分の意見を持ち、自分の自由を持っているか…?となんとなく自問を始めてしまい、映画観終わった後しばらくロビーでうろうろしてました(※迷惑です)この作品よりはゆるやかなだけで、ぼくも「人数」でしかないのではないか…??いや…そんなはずは…たすけて…
単純なリアリティとはまた一味違った強烈な圧のある作品です。社会って怖い!