こぶのなかのしる

観た映画のこととか、アナログゲームのこととか、色々と与太話して暮らしています

【映画】アップグレード

最近ジムに通い始めました。

 

もはや筋肉の化身といっても差し支えないので、面白かった映画の話をしたいと思います。

 

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「アップグレード」

犯罪者に襲われ大事故にあい、最愛の妻を喪い自分も全身マヒ状態になってしまった主人公。失意の中で知人に紹介された違法AI「STEM」を埋め込まれたことにより四肢の自由(といってもその主導権はSTEMにあるのですが)を手に入れ、頭の中でサポートをするSTEMとともに妻の、そして自分自身の復讐のために仇を探して大暴れするお話です。

 

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まず、主人公の四肢が自身の操作ではなくAIに動かされているという演技、動きがものすごい気持ち悪くて、人間の想定するものではない、「機械が考える最適化された動き」という描写の説得力がすごい…その不気味な動きで行われる格闘シーンがめちゃくちゃ面白いのですよね。それ以外にも、要所要所で登場する「ちょっと未来のテクノロジー」の塩梅がこの映画のじっとりとした、地に足の着いたSF感と、陰や湿り気のあるサイバーパンク感!すき!

ちょっと融通が利かないAIと、復讐する以外にやることが無くなってしまった主人公が対話しながら目的に向かって駆け抜ける、かなり歪なバディ・ムービーともいえるかもしれません。この組み合わせと会話のギクシャク感が何とも言えず、魅力満載です。

 

 

全体的に空気は陰鬱で薄暗く、ハイテンションな作品では決してないのですが、近未来、サイバーパンクが大好きな脳内の男の子も、サスペンスが大好きな脳内の男の子も、もちろん女の子も大満足できるいい映画なので、全人類観てほしい…

 

 

 

 

以下ラストに少し言及するので分けておきます。

 

 

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【映画】イーストサイド・寿司

「もう一月記事を書いてないぞ、書いたらどうですか、書け。書けコラ!」とはてなブログからお叱りの自動メールが来てしまいました。

 

とても反省したので、面白かった映画の話をしたいと思います。

 

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イーストサイド・寿司」

屋台で日銭を稼ぎながら暮らすヒスパニック系のシングルマザーが、新しい働き口として目に留めた日本料理店にアルバイトとして勤め始めるうちに、日本食、そして「寿司」の魅力に目覚め、一人前の、そして一流の寿司職人になるべく、差別や困難と立ち向かいながらひたむきに努力していく、というお話です。

 

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(リンク先予告ですが日本語字幕ないので、雰囲気だけでもどうぞ)

 

 

 

失礼ながら「ちょっとトンチキそうな映画なのでは…?」と身構えてしまいそうなタイトルからは想像もつかないくらい、まっすぐで真摯な映画で、日本食、日本人、そして「海外に居を構え日本食を提供するレストラン」というものに対する扱い、描写、姿勢が本当に丁寧で、日本人が見る「和食の文化はこういう形で知られて、伝わってほしい…」というストライクゾーンを直球で撃ち抜いてくれています。最高ですね。

なので、この映画では字幕でも『スシ』と表記されているんですが、個人的には是非『寿司』と表記してもらいたい、と思える映画です。

 

余談にはなりますが、海外では日本の寿司とは違う、アメリカナイズされたお寿司が目立ちますよね。この映画に出てくるカリフォルニアロールなんかがその代表なんですけど。よく揶揄されたり批判されたりしているのを見かけるのですが、この新しいスシも「日本の寿司を現地に馴染んだ料理」にするために日米問わず色々な人が努力した結果生まれたものなので、その土地に合うように改良されたその新しいスシを否定するもんではないと思うんですよね。それを言ってしまうとラーメンやパスタやカレーなんて日本はすさまじい勢いで手を加えてますし…それこそこの映画で語られる「寿司は日本だけのもの」という先入観やこだわりと同じく、柔軟に対応して時には壊していくような観念なんだろうなぁと思うのでした。

長い!7文字でまとめると「お寿司おいしい」です。

 

 

 

主人公のフアナも、人種も性別もアウェー、という絶対的に不利な環境の中を腕前、気迫、努力、誠実さで押し切っていくという、ほんとうに気持ちのいいキャラクターです。中盤で伝統に凝り固まり差別的になってしまっていたお店に対して強烈な啖呵を切るシーンはめっちゃかっこいい…

そんな真剣で意志の強い彼女だからこそ、あちこちに壁はあっても必ず味方になってくれる人がいるんですよね。いやほんとすごい、ぼくも応援したくなるそんな素敵な主人公です。

ラストシーンの一連の描写は本当に最高なので、是非そこまで観てほしいですしお寿司食べに行ってほしいですし、なんならぼくにお寿司をおごってほしいですね!

 

 

おすしたべたい…緑の悪魔ロール…

【映画】残酷で異常

久しぶりに髪を切りました

 

サッパリしたので、面白かった映画の話をしたいと思います。

 

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「残酷で異常」

誤って妻を死なせてしまい自分も命を落としてしまった男が飛ばされたのは死後の世界ではなく謎めいた不気味な更生施設のような建物。そこで行われる殺人告白グループセラピーと、妻を死なせた一連のシーンのループを繰り返させられるうちに、自分のしてきたことや事件の時に起こった出来事の、自分が知らなかった裏が解き明かされていく、という不気味で不思議で不安なループものミステリーです。

 

この舞台となる建物、見た目には普通の更生施設なんですけど、そのあまりの硬質な無機質さや、グループセラピーの講師が解像度の異様に低くて古めかしいテレビの画面越しにしか登場しないことの異様な不気味さによって、そのビジュアルでガリガリとこちらを不安定な感情で揺さぶってきます。こわい!というか、このテレビ越しの講師2人の顔がめちゃくちゃ怖い。テレビの解像度も相まってものすごく気持ち悪いんですけど、なかなかできないですよこの不気味さは…それ目的だけでも観てほしい…不安になってほしい…

根本的に「なんなのこの施設?」という正体に関する説明は一切なく、それ自体はこの物語の主軸ではないのでバッサリと切り捨てられているところはとても潔いと思います。いろいろと想像できるところはあるんですけど。

ぼくは物語の核心にあまり関与しない作品設定って触れすぎると冗長になることがあるから流すときはサクッと流しちゃってもいいなぁと思う派です。興味はあるので裏設定とかあるとそれはそれで嬉しいんですけどね。

 

感覚としては、地獄の門や三途の川といった、地獄にたどり着くまでの「篩」のようなもので、なんらかの条件を満たすことであの世、もしくはこの世に脱出することが出来るのかなとか、人を殺す罪を犯してしまった罰として永遠にこの場所に閉じ込められてるのかな、とかなかなか想像を掻き立てられて良いですね。

「死後の世界」っていうのは誰も行ったことがないので、誰でも好きなように想像できるのが面白いのです。行きたくないしね…

 

 

 

タイトルはちょっと変テコ(これは直訳をそのまま採用してしまったためらしいです)なのですが、その実態は舞台設定のギミックも有効に使われた非常にしっかりした作りのミステリーで、そしてなにより観てるだけでどんどん正気度がすり減るようなすてきなビジュアルの映画なので、全人類観てほしい…

 

 

以下ラストシーンに触れるので分けておきます

 

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【映画】ロック・ユー!

27日は誕生日でした。おめでとうございます。

 

歳も取ったことだし、面白かった映画の話をしたいと思います。

 

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「ロック・ユー!」

中世ヨーロッパ貴族たちの馬上槍試合大会で、大会中に死んでしまった主人のかわりに身分を偽って参加した平民の主人公ウィリアムが、その持ち前のド度胸を活かしてそのままニセの騎士として大会を次々と勝ち上がり、仲間たち共々成り上がっていく…という歴史絵巻…ものに見せかけた、完全なスポ根少年マンガです。

いや…映画です。

いや…やっぱりこれはもはやマンガだな…?!

マンガです(結論)

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 (リンク先予告編ですが日本語字幕ないので雰囲気だけでも感じ取ってね)

 

 

一本筋の通った熱血でカッコよくて魅力的でしかも顔が良い主人公だけでなく、個性的で腕利きの仲間たち、一筋縄ではいかない貴族のヒロイン、骨の髄まで悪辣に描写される(しかもめちゃくちゃ顔が良い)完璧なライバルと、ほんとうにキャラの立った登場人物が配置されていて、その芯の太い展開共々ものすごい良質の少年マンガの単行本を一本読破したような気持ちになれるんですよ…

そして、物語も完全なご都合主義などだけではなく*1「この天恵や展開には必ず主人公たちによるこの理由付けがある!」というエピソードが積み上げる説得力も抜群です。

 


仲間たちの中でも、特に紋章官兼文筆家チョーサーが最高の野郎なんですよ。

バクチ中毒の軽薄でイヤミなダメ人間だけどその口八丁と文章作りが天才的で、文書偽造からはじまりウソ、ハッタリ、挑発から時間稼ぎ、扇動に至るまで言葉に関わる見せ場がめちゃくちゃにカッコいい。しかも顔が良い。最高。

開始25分で2回素っ裸にひん剥かれるところまで含めて魅力の塊です。2回はなかなかないですよ?!
選手紹介の口上もプロレスのアナウンスみたいでカッコいいんですよね。

 

 

映画全体がロックンロールやスポーツをフィーチャーしていて、たとえば冒頭のWe Will Rock Youの「ドンドンパッ!ドンドンパッ!」という最高のツカミ、贔屓チームの紋章をフェイスペイントしてる観客や、吹っ飛んだ兜をホームランボールのように取り合うシーンなど、エンターテインメントで何が盛り上がり、何が見栄えするかを完璧に理解している作りが素晴らしすぎる…

 

中世の歴史の中で語られる物語ですが、とにかく時代考証やリアルさよりも、物語の熱さと外連味、スカッと爽やかな喉ごしに全舵を切った極上のエンタメ作品だと思います。世間の鬱屈に疲れた時に、全人類観てほしい…

*1:ぼくはご都合主義も好きですけど

【映画】ユージュアル・ネイバー

炭酸で割って飲むパインアメサワーの原液を買ったらめちゃくちゃおいしかったので、興味のある方は手に取ってみてください。オススメ

 

パインアメサワーが美味しかったので、面白かった映画の話をしたいと思います。

 

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「ユージュアル・ネイバー」

郊外の親戚宅に新しく引っ越してきた女の子が、近くに住む、脚の病気で外に出られず家にこもりきりの男の子と出会い、お互いの「初めての友達」として、大人たちにナイショでその仲を深め合うやさしいボーイミーツガール…

…なんてほんわかした映画だと思ったか!バカめ!ズドン!!バン!!ドカドカ!!
と、もういくらなんでもあまりにも目を覆いたくなるような、強烈で生々しいDVを全力でぶつけこちらの精神をグラインダーでゴリッゴリに削り取りながら、その裏でえげつない謎も進行してくるという、胸糞ながら最高のサスペンスです。

 

 

なんといっても、足の不自由な少年アンディのママ、このDDV(ダイナミック・ドメスティック・バイオレンス)がすさまじい…静と動の狂気を両方たっぷりと持ち合わせていて、観てるだけでヒュンってなります。これがあまりにもパワフルなので、そこそこ元気なときに観ないとかなりダメージくらうかもしれません。ぼくは元気でよかった…2回目は知ってて身構えたのでよかった…

DVがものすごいのですが、生スリラーではなくて(生スリラーって何だ?)基本はサスペンスであって、物語に置かれた小規模の謎と子供ゆえの突破力のなさのバランスが良くて、いい感じにドキドキ、ハラハラ出来る作りになっています。このくらいのパワーバランスが好きだなぁ

 


この映画、原題は「THE HARVEST」なんですけど、このタイトルつけた人宇宙で一番シュミが悪いとおもいます…いやそのとおりなんですけどね。趣味が悪い。人の心がない

 


んで!!

 

日本版のジャケットというか宣材や邦題のサブタイトルは「え…それ観る前に言っちゃっていいの?」みたいなことが書いてあるので、もしこの記事で興味がわいたら、できればそれ以外の宣材や前情報は目に入れないで映画を観てほしい…(この紹介もそれなりに気を付けているつもりではあります)…という悩ましい作品です。どうしてこんなことに…

(予告編も貼ろうと思ったんですけど、内容をけっこう説明しちゃってるので今回は省きました。もう!!)

【映画】隣人は静かに笑う

明日は遊んでるゲームのキャラクター人気投票の発表なのでドキドキしています。

 

落ち着かないので、面白かった映画の話をしたいと思います。

 

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「隣人は静かに笑う」

大学教授の主人公マイケルが、自宅近くで大怪我していた隣人の子を保護したことから交流が始まるのですが、あるきっかけからその優しそうな隣人一家の経歴や素性に違和感を感じ、ひそかにすこしずつ調べ始めると違和感と不気味さはどんどん大きくなっていき…やがてその隣人の正体が明らかになっていく…それに振り回されどんどん追い詰められていく…というお話です。

 

まぁ~とにかく道中の話が静かなんですよ。ごく一部でちょっと大きな動きがある以外は、ひっそり静かにじりじり物語は動いていくんですけど、それが本当に不気味で不気味で…隣人の夫婦は2人とも見た目と雰囲気は温和で優しそうなんですが、それが余計にこの得体の知れなさをブーストしてこっちを揺さぶってきます。

特にこの主人公マイケルが、真摯で、聡明で、善良であるがゆえに追い詰められ転がされていくのがこちら目線では痛々しいほどに伝わってくるので、それがつらい。主人公マイケルだけでなく、それを観てるぼくらを丁寧に、丁寧に、丹精込めて追い詰めていきます。もう、ほんとに、性格が、悪い!!

 

 

 

そして、この映画のキモなんですが、あまりにもあんまりなラスト…本当に衝撃すぎる…あまり言うと雰囲気だけでもネタバレになりかねないんですけど、これはもう言及せざるを得ないんですよ。

それまでに描写されてきた様々なピースをすべて飲み込んでその豪腕で画面の前の人間を全員屈服させる、すさまじい幕引きです。というか、もう、あまりにも胸糞すぎて…スタッフロールが流れ始めたあたりで部屋の中少しうろうろしちゃった…でも、その結末をよりしっかりしたものにするための地盤固めも周到で、なんというか、もう降参です…許してください…この結末を作ったやつらには人の心がない

 

 

「胸糞で衝撃的です…」くらいは言っても許されますよね…?言った!許された!OK!!

【映画】ピザ!

どうせ外食できないからと、普段買わないレベルの高い缶詰を買ったらおいしくて飛び上がりました。お酒にもあう…

 

ペロンペロンに酔ってるので、面白かった映画の話をしたいと思います。

 

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「ピザ!」

インド、チェンナイの貧しいスラム街に住む幼い兄弟が、いつも遊んでいた空き地に突然建ったピザ屋を目の当たりにして、「なんだあのなんかすごい感じの食べ物は…??食べてみたい…!!」と憧れを抱き、1枚のお値段が兄弟2人の月の稼ぎよりはるかに高いそのウワサのピザとやらを食べるために奔走する、というお話です。

 

 

 

インドの貧富激しい格差社会が物語の根底にあるので、ともすれば雰囲気が陰鬱になりやすい地盤だと思うんですけど、この映画は主人公兄弟2人の表情、家族のやさしさがとにかく明るくて、そういう暗いムードはほとんど感じられず、むしろその辺ぶっちぎって金策や生活がドタバタしたコメディタッチにまで突き抜けています。これはほんとうにすごいことですよ。というかもうこの画像の兄弟2人の笑顔がすべてですよね。映画的に映えそうな悪い事やズルいこともせずに、ひたすらに工夫とがんばりで壁を越えようとするのがすごい。応援しかない…

 

そして、周りの人たちも素敵で、

 

一家を支えるしっかり者で根底に我が子への強い愛情を持つおかあさん!

ひたすらにやさしく、兄弟をあたたかく包み込むおばあちゃん!

保釈金が払えずに刑務所の中から出られないおとうさん!(物語には30秒くらいしか出てこない)

アルバイトの手伝いをしてくれるニンジンという名前の気の良いおじさん!(途中で朗らかに横領をやらかして消える)

 

あと、主人公の兄弟は「大きな卵」「小さな卵」と呼ばれて*1、作中でその本名が出てくることはないのですけど、これはもしかしたら「この2人は特定のキャラクターではなく、インドの貧民層の子供そのものなんですよ」というこの映画が示すちょっとしたメッセージなのかもしれないですね(まじめ)

 

 

 

ピザ屋やチンピラ、果てはTV局や政治家まで巻き込んだちょっとした騒動の末にお話は丸く収まっていくんですが(ここでちゃんとハッピーエンドになるのが本当に良い)ラストの兄弟の会話は、まさにこの映画に流れる血液そのもの、という、本当に最高の会話なんですけど、あまりにもよすぎて実際にご自身で観てほしいのでよろしくお願いします。衝撃のラスト!ではなく、王道の畳み方なんですけど、でも…ほんと最高…

貧困層でも富裕層でもインド人でもピザでも石炭でもないのに「ざまーーーみろ!!!」ってなりましたよね 。何に????

 

あたたかい気持ちになれる素敵な映画なので全人類観てほしい!

観賞に際してピザを手元に置くと感情移入に失敗する可能性が非常に高いのでおすすめしません!ポップコーンかポテチか柿ピーでどうぞ

 

 

*1:カラスの卵を獲って食べる癖があることから